「給料は高くない。でも辞めない」外国人材が平均7年働く職場で見えた定着の理由

離職・定着

外国人材の定着について考えるとき、

「給与を上げたほうがいい」

「待遇を改善したほうがいい」

という話になることがあります。

もちろん、給与や待遇は重要です。

実際、今回紹介する会社で働くベトナム人材の中にも、

「もう少し給与が高ければいい」

「評価点をもう少し上げてほしい」

と感じている人はいました。

それでも、この会社の設計部門では、正社員・派遣社員・契約社員を含め、約13人のベトナム人材が働いています。

平均在籍年数は約7年。

中には、派遣社員として働き始め、その後正社員に登用され、13年以上勤務している人もいます。

さらに、会社の近くで住宅ローンを組み、自分名義の家を購入した人も何人かいるそうです。

私はこの話を聞いて、少し不思議に思いました。

給与に不満があるのに、なぜこれだけ長く働き続けているのだろう。

今回は、ベトナム人コミュニティを通じて聞いた話をもとに、

「不満があっても辞めない職場には、何があるのか」

を考えてみたいと思います。

なお、個人や企業が特定されないよう、一部の情報は伏せています。

10年かけて、少しずつできたコミュニティ

この会社では、約10年前からベトナム人材の受け入れが少しずつ始まりました。

最初から大人数を採用したわけではありません。

毎年少しずつ新しい人が入り、その積み重ねで現在の人数になったそうです。

雇用形態もさまざまで、派遣社員として働き始め、その後正社員に登用された人もいます。

この環境で特徴的なのは、

すでに長く働いている先輩の姿を、新しく入った人が目の前で見ることができること

です。

会社から、

「頑張れば将来的に正社員になれる可能性があります」

と説明されるだけではありません。

実際に、自分と同じように派遣から始め、今は正社員として長く働いている先輩が身近にいる。

それ自体が、後から入った人にとって一つの安心材料になっている可能性があります。

最初の一人の苦労が、次の人を助ける仕組みになった

最も長く働いているベトナム人社員は、入社当初かなり苦労したそうです。

当時は同じ国の先輩も少なく、仕事の進め方だけでなく、日本での生活についても自分で一つずつ覚えていく必要がありました。

だからこそ、

「次に入る人には、自分と同じ苦労をしてほしくない」

と考えるようになったそうです。

そこから、新しく入った人を先輩が自然にサポートする形が生まれました。

仕事や会社のルールだけではありません。

家探し、病院、在留資格、生活手続きなど、日本で生活するうえで必要な情報も共有しています。

一人の経験が次の人を助け、その人がまた次の人を助ける。

会社が最初から大きな制度を作ったわけではありませんが、長い時間をかけて、自然に支え合う仕組みができていったようです。

会社も、つながりを続ける場を作っていた

このコミュニティは、社員だけに任されているわけでもないようです。

会社では定期的に食事会を開く機会があり、部署の違うベトナム人材も集まって、仕事や生活について情報交換をするそうです。

普段は別の部署で働いていても、

「最近どう?」

「今はこんな仕事をしている」

「この手続きはこうしたほうがいい」

と話せる場があります。

もちろん、

「同じ国の人が多ければ定着する」

と単純に考えるべきではないと思います。

同じ国籍でも、価値観や人間関係は一人ひとり違います。

ただ、日本で働く外国人材にとって、仕事や生活について気軽に相談できる人が社内にいることは、一つの安心材料になり得るのではないでしょうか。

「質問しても嫌な顔をされない」職場

もう一つ、よく聞いたのが上司や周囲の雰囲気です。

分からないことを質問しても、

露骨に嫌な顔をされたり、

「そんなことも分からないのか」

という態度を取られたりすることは少ないそうです。

基本的には、質問すればきちんと教えてくれる。

社内も比較的明るく、外国人に対して開放的な雰囲気だといいます。

ただし、何でも優しく受け入れてもらえるわけではありません。

同じ質問や同じミスを何度も繰り返せば、当然厳しく指導されます。

質問しやすい。

でも、

求めるものはきちんと求める。

私は、このバランスが印象に残りました。

実際に、長く働いている一人に、

「なぜ、これだけ長くこの会社で働いているのですか?」

と聞いたことがあります。

返ってきた答えは、

「仕事の環境にはほとんど不満がありません。むしろ、別の会社に行って自分がうまく適応できるか不安になるくらい、今の環境に満足しています」

というものでした。

給与だけを見れば、不満がまったくないわけではありません。

それでも本人にとっては、

「ここなら安心して働ける」

という感覚のほうが大きいようでした。

評価に不満があっても、理由には納得できる

評価についても興味深い話がありました。

「もう少し評価点を上げてほしい」と感じている人はいます。

それでも、評価そのものを強く不信に思っているわけではないそうです。

理由の一つは、

自分に何が足りないのかを具体的に伝えてもらえること

です。

「もっと頑張ってください」

といった曖昧な言葉だけではなく、不足している部分を文章や文書にして伝える。

家に帰ってからでも、自分で読み返すことができます。

さらに、指摘された部分を改善すれば、次の評価で実際に反映されるケースもあります。

指摘される
→ 改善する
→ 評価が上がる
→ さらに頑張る

という流れが生まれているのです。

評価点そのものより、

「なぜこの評価なのか」

「次に何を改善すればいいのか」

が見えることが、本人たちの納得感につながっているように感じました。

私自身、外国人材と関わる中で、

「評価が低いこと」そのものより、

「何をすれば評価が上がるのか分からない」

状態のほうが、長期的には大きな不満につながる場面があると感じています。

「この会社なら長く働ける」という安心感

この会社の勤務条件が、すべて理想的というわけではありません。

忙しい時期には残業がかなり多い月もあります。

給与も、本人たちが「高い」と感じているわけではありません。

それでも長く働く人が多い理由として、もう一つよく聞くのが、

会社の事業そのものへの安心感

でした。

事業が安定していて、

「この会社ならこれからも長く働けそうだ」

と思える。

その安心感を象徴するような話があります。

長く働いているベトナム人社員の中には、

会社の近くで住宅ローンを組み、自分名義の家を購入した人も何人かいるそうです。

本人たちが家を買う決断をした理由の一つも、

「この会社なら長く働けると思ったから」

でした。

この話を聞いたとき、私は「定着」という言葉の意味を少し考え直しました。

その人たちにとって、この会社や地域は、

すでに一時的に働く場所ではなく、

これからの生活を作っていく場所

になっていたのかもしれません。

また別の職場では、決して便利とは言えない地方の環境でも、通勤や冬の生活への小さな気遣い、仕事での期待や周囲との関わりが積み重なり、「この会社なら自分の成長を任せられる」と感じて約5年働き続けている外国人社員もいました。詳しくは、「ここなら自分を見てくれる」地方で5年働く外国人社員と会社の小さな気遣いで紹介しています。

定着とは、「不満をゼロにすること」ではないのかもしれない

今回の会社にも、不満はあります。

給与。

評価点。

忙しい時期の残業。

それでも、平均して約7年働いている。

その背景には、

相談できる先輩がいる。

質問しやすい上司がいる。

評価の理由が分かる。

改善すれば、きちんと見てもらえる。

会社の事業に安定性を感じられる。

そして、自分より先にここで長く働いている人がいる。

そうしたものが、一つずつ積み重なっていました。

だから私は、

定着とは、不満をゼロにすることではなく、「ここで働き続けられる」と思える理由を積み重ねることなのかもしれない

と感じています。

ヒトデタリナイの視点|「辞める理由」だけでなく、「残る理由」を聞く

外国人社員が退職すると、

私たちはどうしても、

「なぜ辞めたのか」

を考えます。

あわせて読みたい

外国人社員が辞める理由については、私が現場で感じてきた主な原因と企業ができる対策をこちらの記事でまとめています。

もちろん、それは重要です。

ただ今回の話を聞いて、反対の質問も必要なのではないかと思いました。

「なぜ、この会社で働き続けているのか」

という質問です。

長く働いている本人たちに聞けば、会社側が気づいていなかった「残る理由」が見えてくるかもしれません。

私なら、外国人材の定着を考えるとき、

給与や福利厚生だけではなく、

「困ったときに誰に相談できるのか」

「評価に納得できているのか」

「数年後もこの会社で働いている自分を想像できるのか」

という点も、一度確認してみたいと思います。

もちろん、今回の会社と同じことをすれば、すべての会社で同じ結果になるわけではありません。

同じ国籍の人が多いことが、必ずしも全員にとって働きやすさにつながるわけでもありません。

それでも、

自社で長く働いている外国人材に、

「なぜ、ここで働き続けているのですか?」

と一度聞いてみる。

そこから、自社がすでに持っている定着の強みが見えてくることもあるのではないでしょうか。

皆さんの会社には、

給与以外に、外国人材が「ここで働き続けたい」と思える理由があるでしょうか。

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