外国人社員が退職すると、
「仕事が合わなかったのではないか」
「給与に不満があったのではないか」
「上司との関係が悪かったのではないか」
と、どうしても仕事の中に理由を探したくなります。
もちろん、仕事内容や評価、人間関係は退職に大きく関係します。
ただ、これまで外国人材の支援に関わる中で私は、
会社への不信感は、必ずしも仕事の中だけで生まれるわけではない
と感じることがありました。
今回紹介するのは、約3年間派遣社員として働いた後、派遣先の正社員になった外国人社員の話です。
彼は派遣社員としての評価も良く、派遣先も長期的に活躍してほしい人材として考えていたようです。そして最終的に、正社員として迎え入れることになりました。
本人にとっても、3年間働いてきた会社から正社員として認められたことは、嬉しい出来事だったと思います。
ところが、その新しいスタートの直前。
仕事とは直接関係のない住居契約をきっかけに、彼の会社に対する見方が少しずつ変わっていきました。
退職者の本音 #01では、報連相をめぐる改善指導が本人には「差別」と受け取られたケースを紹介しています。
正社員になるため、自分名義で部屋を借りる必要があった
彼は派遣社員として働いている間、派遣会社名義で契約した住居に住んでいました。
しかし派遣先の正社員になるということは、私たちの会社からは退職するということでもあります。
そのため、派遣会社名義の住居契約も終了し、新しく自分で部屋を探して契約する必要がありました。
本人も、
「部屋は自分で探さなければならない」
ということ自体には納得していました。
問題になったのは、その後です。
不動産会社から、日本国内の緊急連絡先を求められました。
ここは誤解のないように、はっきり書いておきたい部分です。
今回求められていたのは、保証人ではありません。
本人も、「保証人ではなく、緊急連絡先を求められている」ということを理解していました。
家賃などについて責任を負う保証人ではなく、何かあった時に連絡できる日本国内の知人情報が必要だ、という認識でした。
今回本人が求められていた情報には、名前や電話番号だけでなく、住所や勤務先なども含まれていたそうです。
それでも本人には、
「保証人を頼んでいるわけではないのだから、3年間一緒に働いてきた人なら、誰か一人くらい協力してくれるのではないか」
という期待がありました。
当時、彼には日本でそのようなお願いができる知人がほとんどいませんでした。
そこで最初に頼ったのが、3年間一緒に働いてきた派遣先の人たちでした。
同僚、上司、人事。すべて断られた
彼はまず、普段一緒に働いていた同僚に相談しました。
しかし、
「助けたい気持ちはあるけれど、個人情報なので難しい」
という理由で断られました。
次にチームの上司、最後には本人が関係も良いと思っていた人事担当者にも相談しましたが、答えは同じでした。
ここで私は、
「会社の人なら緊急連絡先になるべきだった」
と言いたいわけではありません。
緊急連絡先であっても、自宅住所や電話番号、勤務先などの個人情報を伝えることに抵抗を持つ人はいると思います。
だから、誰が正しかった、誰が冷たかったという単純な話ではありません。
ただ、同じ出来事でも、本人にはまったく違う見え方をしていました。
本人にとっては「保証人ではなく、ただの緊急連絡先」だった。
一方、依頼された側にとっては、
「住所や電話番号などの個人情報を渡す個人的なお願い」
だったのかもしれません。
この認識の違いが、本人にとって想像以上に大きなショックになりました。
「3年間一緒に働いてきたのに」
後から本人に話を聞いた時、彼は、
「3年間、一緒に楽しく働いてきたと思っていた」
と話していました。
仕事をする時間だけを考えれば、派遣元の担当者である私よりも、派遣先の人たちと過ごした時間の方が圧倒的に長かったと思います。
毎日一緒に働き、本人なりに良い人間関係を作ってきたつもりだった。
だからこそ、
「保証人ではないし、緊急連絡先なら誰か一人くらい頼めるだろう」
と考えていたようです。
ところが、同僚、上司、人事と相談しても結果はすべて同じでした。
本人はその時、
自分と会社の人たちとの間には、自分が思っていた以上に距離があった
と感じたそうです。
派遣先の人たちからは、
「緊急連絡先を必要としない不動産会社を探してみてはどうか」
「外国人向けの支援サービスがあるかもしれないので調べてみてはどうか」
という話もあったそうです。
方法としては間違った提案ではありません。
本人にも、他の不動産会社や利用できる支援方法をもう少し調べる余地はあったと思います。
実際、その時点では十分に調べ切る前に私のところへ相談に来ました。
それでも、本人が強く失望していたのは、解決方法が見つからないことだけではなかったのだと思います。
3年間一緒に働いてきた人たちに次々と断られ、最後には「他の方法を自分で探してみてください」と言われた。
その一連の経験から、
「自分はこの人たちと仲間だと思っていたけれど、相手から見ると違ったのかもしれない」
という気持ちが生まれたのではないかと思います。
最後に、彼は私のところへ来た
彼は最初から私に、
「緊急連絡先になってください」
と頼んできたわけではありません。
「どうすればいいか分からない」
という形で相談してきました。
正直に言えば、業務上の関係だけを考えるなら、私が緊急連絡先になる必要はなかったと思います。
彼はこれから派遣先の正社員になり、私たちの会社からは退職する人です。
契約上の関係だけを考えれば、その後の住居契約まで私が支援する必要はなかったかもしれません。
それでも、私は自分の情報を提供することにしました。
理由の一つは、私自身も外国人として日本で似た経験をしたことがあったからです。
私も日本で生活を始めた頃、日本人の知人がほとんどいない中で住居契約に苦労しました。
日本に家族も昔からの友人もいない中で、
「日本国内の知人の連絡先を書いてください」
と言われる。
その時の困り方や心細さには、私自身にも覚えがありました。
そしてもう一つ。
私は外国人エンジニアを、
契約が終われば関係も終わる「人材」としてだけ見たくない
と考えています。
この「人材としてだけ見たくない」という考え方は、私が外国人材と関わる中で大切にしてきたものの一つです。なぜそう考えるようになったのかについては、
「人ではなくモノとして見た方がいい」と言われた私が、それでも外国人材を人として見たい理由
で詳しく書いています。
仕事上の関係が終わっても、目の前で困っている一人の人であることは変わりません。
自分に無理なくできる範囲で助けられるのであれば、私は助けたい。
その時もそう考え、緊急連絡先になることにしました。
本人はとても感謝してくれました。
同時に、派遣先の人たちに感じた寂しさや失望についても話してくれました。
緊急連絡先を断られたから退職したわけではない
ここは、今回の話で特に大切な部分です。
彼は、緊急連絡先になってもらえなかったから会社を辞めたわけではありません。
その後、予定通り正社員として入社しています。
ただ、後になって本人から話を聞くと、この出来事は会社に対する気持ちが変わり始めた一つのきっかけだったようです。
正社員になった後も、仕事そのものではなく、日常の小さな出来事で寂しさを感じることがありました。
例えば、職場の人たちが飲みに行った際、自分だけ声をかけてもらえなかったと感じたこと。
これも周囲に悪意があったのかは分かりません。単なる偶然だった可能性もあります。
ただ、一度、
「自分はこの会社では少し外側の人なのかもしれない」
という気持ちが生まれると、それまでなら気にならなかった出来事まで違って見えることがあります。
住居契約での出来事。
飲み会に声をかけてもらえなかったこと。
その他、本人が日々感じていた小さな違和感。
一つひとつは退職するほど大きな問題には見えないかもしれません。
しかし、小さな失望が積み重なれば、
「自分はこの会社の一員として本当に受け入れられているのだろうか」
という疑問につながることがあります。
そして最終的に、彼はその会社を退職しました。
後になって本人から、
「あの住居契約の時のことも、会社に対する気持ちが変わった出来事の一つだった」
という話を聞きました。
会社は、外国人社員の生活をどこまで支援すればよいのか
この話をすると、
「会社が社員の部屋探しまで手伝わなければいけないのか」
と感じる方もいるかもしれません。
私も、会社が外国人社員の生活すべてを支援するべきだとは考えていません。
部屋を探すことや契約条件を確認すること、必要な手続きを進めることは、基本的には本人が行うことです。
また、
「外国人社員が困っているから、誰か社員が自分の個人情報を提供するべきだ」
という話でもありません。
では、今回のケースで会社側には何もできなかったのでしょうか。
私は、そうとも思いません。
例えば、
「私たちが緊急連絡先になるのは難しいです。ただ、他の方法を一緒に探してみましょう」
と伝えることはできたかもしれません。
外国人でも利用しやすい不動産会社がないか調べる。
人事や総務で案内できる情報がないか確認する。
不動産会社に、別の方法で契約できないか問い合わせてみる。
そうした行動も考えられます。
今回のケースで私が考えるようになったのは、
「緊急連絡先になってあげるべきだったか」ではなく、
「緊急連絡先にはなれないとしても、その先を一緒に考えることはできなかったか」
ということです。
結果として同じ「緊急連絡先にはなれない」という答えでも、
「では、どうすればいいか一緒に考えよう」
という一言があるかどうかで、本人が受け取るメッセージは違ったかもしれません。
「仕事ではないこと」が、会社への信頼に影響することもある
会社から見れば、住居契約はプライベートの問題です。
飲み会も正式な業務ではありません。
だから、「仕事とは関係ない」と考えることもできます。
一方で、外国人社員の場合、日本で働くことと日本で生活することを完全に切り離せないケースがあります。
家を借りる。
病院へ行く。
行政手続きをする。
生活上の問題を解決する。
日本で家族や長年の友人がいる人なら身近な人に相談できることでも、日本での人間関係がまだ限られている外国人社員には相談相手そのものが少ないことがあります。
だからこそ会社にとっては、
「仕事とは直接関係のない小さな相談」
に見えても、本人にとっては、
「自分が本当に困った時、この会社の人たちは自分とどう向き合うのか」
を感じる出来事になることがあります。
今回のケースから私は、退職理由を考える時、仕事の中だけを見ていては分からないこともあるのだと改めて感じました。
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外国人社員が退職する理由は、生活面だけでなく、仕事内容・評価・キャリア・人間関係など複数の要因が重なることがあります。現場で感じた主な原因はこちらの記事でまとめています。
ヒトデタリナイの視点|「どこまで支援するか」だけでなく、「どう向き合うか」
外国人社員から生活上の相談を受けた時、会社としてできることには限界があります。
すべてを代わりに解決する必要はありませんし、本人が自分で調べ、自分で解決する力を持つことも大切です。
今回の彼にも、別の不動産会社や支援方法をもう少し自分で探せた部分はあったと思います。
今振り返ると、
会社側にもできたことがあり、本人にもできたことがあった。
私はそう考えています。
だから、「会社がもっとやるべきだった」だけでこの話を終わらせたいわけではありません。
ただ、私自身は、
「それは会社の仕事ではありません」で会話を終わらせないこと
には意味があると思っています。
できないことは、できないと伝える。
その上で、
「では、他にどんな方法があるだろう」
と一緒に考える。
それだけでも、本人が感じる心理的な距離は変わるかもしれません。
私自身も外国人材を支援する中で、どこまでが仕事で、どこからが本人の問題なのか迷った経験は何度もあります。
今も、すべての会社や外国人社員に当てはまる一つの正解があるとは思っていません。
ただ、目の前の人を、
「契約上、自分たちが対応しなければならない人か」
だけで見るのではなく、
一人の人として、今何に困っているのかを見ること。
それは、これからも大切にしたいと考えています。
まとめ|退職理由は、一つの大きな事件とは限らない
今回の外国人社員は、約3年間派遣社員として働き、評価され、正社員になりました。
それだけを見れば、会社との関係は順調だったように見えます。
しかし、正社員として新しいスタートを切る直前の住居契約で、本人は会社の人たちとの心理的な距離を強く感じました。
そして、その後も小さな出来事が少しずつ積み重なっていきました。
緊急連絡先を断られたことだけが退職理由ではありません。
飲み会に声をかけてもらえなかったことだけが退職理由でもありません。
一つひとつの出来事を本人がどう受け止め、それが会社への信頼にどう影響したのか。
そこまで見なければ、本当の退職理由が見えてこないケースもあるのだと思います。
外国人社員が退職した時、
「仕事内容には問題がなかった」
「給与も悪くなかった」
「職場でも普通に働いていた」
という理由だけで、
「なぜ辞めたのか分からない」
と結論づける前に、
仕事の外側で、本人にはどんな出来事があったのか。
そこまで一度振り返ってみてもよいのではないでしょうか。
皆さんの会社では、外国人社員から「仕事とは直接関係のない相談」を受けた時、どこまで一緒に考えているでしょうか。



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