人材業界で働いていた頃、ある日本人の営業担当者から、こんなことを言われたことがあります。
「人材業界は人を扱う仕事だから、あまり情を入れすぎない方がいい。」
給与改定や契約終了など、本人にとって敏感な話をしなければならない場面があります。
相手と親しくなりすぎれば、そういう時に自分も感情的につらくなる。
だから、
「ある程度、人ではなくモノとして見た方が仕事はしやすい」
という考え方でした。
その営業担当者が冷たい人だった、という話ではありません。
人材業界で仕事を続ける中で、感情に引っ張られすぎずに判断するための一つの考え方だったのだと思います。
実際、私自身も外国人エンジニアと長く関わる中で、
「もう少し距離を置いていた方が楽だったかもしれない」
と感じたことはあります。
それでも私は、
外国人材を「モノ」として見るという考え方には、どうしても納得できませんでした。
なぜなら、私が現場で経験してきたのは、
距離を取ったから問題が減ったというよりも、
人として向き合い、信頼関係を作ったからこそ、難しい話までできた
というケースの方だったからです。
今回は、私が外国人材と向き合う時に大切にしてきた考え方について書いてみたいと思います。
「情を入れすぎている」と言われたこともあった
私は同じ日本で働く外国人として、できるだけ外国人エンジニア本人の気持ちを理解したいと考えていました。
ただ、ある時、上司から、
「外国人エンジニアに少し情を入れすぎているのではないか」
と言われたことがあります。
距離が近くなれば、本人も遠慮がなくなる。
給与や仕事について強い要求を言われることも増える。
それなら、ある程度線を引いた方が管理しやすいのではないか。
そういう意味だったと思います。
実際、信頼関係ができると、本音を強く言われることがあります。
「給与をもっと上げてほしい」
「この職場には納得できない」
「もっとこうしてほしい」
といった要求も出てきます。
ただ、私はそれを必ずしも悪いことだとは考えていませんでした。
むしろ、
本人が本当は何を考えているのかを知るための材料
だと考えていました。
もちろん、すべての要求を受け入れることはできません。
会社としてできないことは、できないと伝える必要があります。
ただ最初から、
「会社のルールはこれです」
と決められた条件だけを示すより、
まず本人が何を望んでいるのかを聞く。
そのうえで、会社としてできることとできないことを話し合い、現実的なところまで調整していく。
私はその方が、本人も納得しやすいと感じていました。
面談は「問題がありますか?」を確認するだけの時間ではなかった
私は担当していた外国人エンジニアとは、少なくとも3か月に一度は直接会って話すようにしていました。
ただ、連絡するのは面談の日だけではありません。
外国人社員との定期面談で、実際にどんな項目を確認すればよいのかについては、「外国人社員との定期面談で確認すべき8つの項目|離職を防ぐ質問例と現場で感じたポイント」でまとめています。
普段からメッセージで、
「最近どうですか?」生活しているから向き合う」のか
「何か困っていることはありませんか?」
とやり取りをしていました。
本人からも、仕事や生活についての小さな質問や不満が送られてくることがありました。
直接会う時も、会議室で決められた質問だけをするのではなく、
一緒に食事をしたり、時にはビリヤードに行ったりしながら話すこともありました。
もちろん、すべての外国人社員と仕事外で交流するべきだという意味ではありません。
人によって心地よい距離感は違います。
ただ私の場合は、少し堅い仕事の場を離れた方が、本人が自然に話してくれることが多いと感じていました。
仕事のこと。
給与のこと。
将来のキャリア。
日本での生活。
派遣先には直接言いにくいこと。
そうした話を聞き、必要な内容については本人の意図を確認したうえで派遣先にも共有していました。
私にとって面談は、
「問題があるか確認する時間」よりも、問題になる前の小さな違和感を知る時間
だったのだと思います。
「あなたたちの味方です」の意味
私は担当している外国人エンジニアに、
「私はいつもあなたたちの味方です」
ということを伝えるようにしていました。
ただし、ここでいう「味方」は、
本人の要求を何でも受け入れるという意味ではありません。
外国人エンジニア本人に明らかな問題があれば、私はかなりはっきり伝えていました。
「これはあなたの側にも改善が必要です」
と言うこともあります。
ただ、
「あなたが悪いです。直してください」
だけでは終わらせないようにしていました。
なぜ問題になったのか。
次に同じことを起こさないためには何ができるのか。
本人がどこを理解できていないのか。
必要であれば私自身も情報を調べながら、本人が理解できるところまで一緒に考えるようにしていました。
だから私にとって、
人として向き合うことは、甘やかすことではありません。
言うべきことは言う。
ただ、その先のことまで一緒に考える。
それが「味方でいる」ということでした。
距離が近かったからこそ、厳しい話の後も関係が切れなかった
人材業界で働いていると、本人にとって厳しい話をしなければならないことがあります。
私が特につらかったのは、ある外国人エンジニアの派遣契約が終了することになった時でした。
本人の勤務態度や能力に問題があったわけではありません。
派遣先の経営状況が悪化したことが理由でした。
私はその人と何度も食事をし、仕事以外でも一緒に過ごしたことがありました。
その本人に、
「今回、契約を終了することになりました」
と伝えるのは、正直かなりつらいことでした。
この時だけを考えれば、
「最初から距離を置いていれば、もっと楽だったかもしれない」
とも思えます。
ただ、その後は私の想像とは少し違いました。
本人は会社の状況を理解してくれました。
そして私を信じ、新しい仕事を紹介できるまで待ってくれました。
もちろん、本人には別の派遣会社へ登録し、すぐに転職活動を始めるという選択肢もありました。
それでも彼は、私が次の仕事を探すのを待ってくれました。
私はこの時、
普段から信頼関係を作っていなければ、彼はすぐに別の会社へ行っていたかもしれない
と感じました。
距離が近かったから、契約終了を伝える時はつらかった。
でも、距離が近かったからこそ、厳しい話をした後も関係が切れなかった。
この経験は、私の考え方に大きく影響しました。
本音を言われない方が怖い
距離が近くなれば、本人から強い要求を受けることもあります。
それを負担に感じることもあると思います。
ただ、今の私は、
本音をまったく言われない方が怖い
と感じています。
不満がある。
給与に納得していない。
職場で困っている。
でも、担当者には何も言わない。
そして本人の中だけで不満が大きくなり、最終的に退職を決める。
それなら、まだ小さい段階で、
「ここに不満があります」
と言ってもらった方が、一緒に考える余地があります。
要求を全部かなえる必要はありません。
ただ、本人が何を考えているか分からなければ、調整することもできません。
その意味で私は、
本音を言える関係を作ることも、定着支援の一つ
だと考えています。
外国人社員だけの味方になるわけでもない
一方で、外国人エンジニアだけの立場に立つことが良い支援だとも考えていません。
派遣先から見て本人に問題があるのであれば、それも理解する必要があります。
逆に、本人の話を聞いて、派遣先の対応にも改善できる部分があると感じた場合は、企業側にも伝えていました。
その時も、
「本人がこう言っています」
と一方的に伝えるだけではなく、
同じ外国人として私が共感できる部分。
日本の職場で働くうえで本人側にも改善が必要だと思う部分。
派遣先に少し変えてもらえれば状況が良くなりそうな部分。
そして、次に双方が何をすればよいのか。
できるだけ整理して伝えるようにしていました。
私は、自分の役割を、
どちらか一方を守ることよりも、本人と会社で見えている景色の違いを言葉にしてつなぐこと
だと考えていました。
私が担当した人は比較的長く働いてくれることが多かった
少なくとも私が担当していた範囲では、他の担当者と比べて、比較的長く働いてくれる外国人エンジニアが多いと感じていました。
ただし、これは正確な比較データを取って検証したものではありません。
定着には、
仕事内容、
給与、
派遣先の環境、
本人の性格、
キャリア、
生活状況など、
さまざまな要因があります。
そのため、
「私が人として接したから定着率が上がった」
と断定するつもりはありません。
それでも、担当者との信頼関係が、
「すぐ辞める」
と決める前に、
「まずこの人に相談してみよう」
と思う理由の一つにはなっていたのではないかと感じています。
「この担当者に話しても意味がない」
と思われるのか。
「一度この人に話してみよう」
と思ってもらえるのか。
その違いは、小さくないと思います。
人材派遣は、人を入れたところから始まる
人材会社の営業担当者は、
何人採用したか。
何人派遣したか。
どれだけ売上を作ったか。
といった数字で評価されることがあります。
もちろん、会社で働く以上、数字は重要です。
多くの人材を派遣し、大きな成果を上げることも営業担当者の大切な仕事です。
ただ私は、
外国人材の派遣は、人を入れたところで終わるのではなく、むしろそこから始まる
と考えています。
配属された後、本人は職場に適応できているのか。
派遣先は何に困っているのか。
双方の間に認識のズレはないか。
問題が起きた時、誰が間に入るのか。
そこまで見ていく必要があります。
そして丁寧なアフターフォローは、外国人社員のためだけのものでもありません。
本人が長く働けば、派遣先にとっても採用や教育を繰り返す負担が減ります。
担当者への信頼が積み重なれば、
「次もこの人に相談したい」
と思ってもらえるかもしれません。
短期的には人を一人でも多く配属する方が成果として見えやすい。
でも長く見れば、
配属した後まで関わることが、次の信頼や仕事につながることもある
と私は感じています。
今の私が考える「人として見る」ということ
「外国人材を人として見ましょう」
と言うだけなら簡単です。
でも、それだけでは少し抽象的です。
今の私が考える「人として見る」とは、
本人の話を聞くこと。
本音を言える関係を作ること。
本人が間違っていれば、きちんと伝えること。
会社側の事情も理解すること。
問題が起きた時、一方だけを責めるのではなく、次に双方が何をできるか考えること。
そして、契約や数字だけでは見えない本人の状況にも少し目を向けることです。
すべての要求に応える必要はありません。
友達になる必要もありません。
会社として守るべき線もあります。
ただ、
「契約している人材だから管理する」のか、
「一人の人が日本で働き、生活しているから向き合う」のか。
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契約上の関係が終わろうとしていた外国人社員から、住居契約について相談を受けたことがあります。「仕事ではない相談」にどこまで向き合うのかを考えるきっかけになった実例です。
「【退職者の本音 #02】『緊急連絡先になれない』3年働いた外国人社員が会社に不信感を持った理由」
その違いは、日々の小さな対応に表れるのではないかと思っています。
今の私なら、まず「相談できる人」を作る
もし今、外国人材の受け入れを一から考えるなら、
私はまず、
「困った時に誰へ相談すればいいのか」
を本人に明確に伝えます。
そして問題が起きてから面談するのではなく、何も起きていない時から定期的に話す機会を作ります。
本人側だけではなく、派遣先にも定期的に状況を確認します。
そのうえで、
「本人はこう考えている」
「会社はこう考えている」
という違いが小さい段階で見つかれば、できるだけ早く双方に伝える。
それで必ず長期定着につながるとは言えません。
会社によって状況は違いますし、本人の考え方も一人ひとり違います。
それでも、
何も言えないまま不満が積み重なり、突然辞める状態を少しでも減らす
ことにはつながるのではないかと思っています。
ヒトデタリナイで伝えていきたいこと
このブログで私は、
「外国人社員にはこうすれば正解です」
と一つの答えを示したいわけではありません。
会社ごとに事情は違います。
本人の性格、日本語力、働く目的も違います。
だから、すべての会社に同じ方法が当てはまるとは思っていません。
ただ、これまで現場で外国人材と関わってきた中で、強く感じていることがあります。
外国人材を受け入れることは、ゴールではありません。そこからが始まりです。
そして長期定着は、
外国人社員本人だけが日本企業に合わせようと努力すれば実現するものでもないと思っています。
本人。
派遣元や支援担当者。
派遣先の上司や人事。
それぞれが自分にできることを持ち寄り、問題が起きた時に一緒に考える。
そうした関係を作っていくことが、長く働ける環境につながるのではないでしょうか。
私も最初からすべて分かっていたわけではありません。
人と近くなったからこそ、つらかったこともあります。
難しい要求を受けることもありました。
それでも今の私は、
感情的に苦しくなることがあるからこそ、人を「モノ」として見るのではなく、それでも一人の人として向き合いたい
と考えています。
それがすべての会社にとっての正解だとは思いません。
ただ少なくとも私は、この考え方をこれからも大切にしていきたいと思っています。
皆さんの会社では、外国人材を採用・配属した後、その人が長く働くために、誰がどこまで関わることになっているでしょうか。



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