友達を作りたかっただけなのに|日本で「話しかける距離感」に悩んだ外国人社員

コミュニケーション・マネジメント

日本語をもっと話せるようになりたい。

日本で友達も作りたい。

そう思って、積極的に人へ話しかけていた外国人社員がいました。

彼はインド出身で、もともと人と話すことが好きなタイプでした。

本人にとっては、知らない人に軽く挨拶をしたり、そこから会話を始めたりすることに、それほど大きな抵抗はなかったようです。

日本に来てからも、

散歩をしている時に道ですれ違った人へ声をかけたり、

住んでいるマンションで隣の部屋の人に挨拶へ行ったり、

マンション内で会った人にも自分から話しかけたりしていたそうです。

本人としては、

「日本語を練習したい」

「せっかく日本に来たのだから、いろいろな人と仲良くなりたい」

という気持ちでした。

ところが、本人が期待していたような反応はなかなか返ってきませんでした。

道で話しかけても、そのまま通り過ぎられたり、

相手によっては距離を取られたりすることもあったそうです。

マンションでも、突然自己紹介をしても反応はあまり良くなかった。

そして会社に入ってからも、

自分から話さなければ、周囲からあまり話しかけてもらえない。

彼はそのことにかなり戸惑っていました。

今回は、そんな彼が日本で感じた「人との距離感」と、その後どのように自分なりの人間関係の作り方を見つけていったのかについて考えてみたいと思います。

「なぜみんな話してくれないのだろう」と感じていた

彼にとって、

人に声をかけることは、

「仲良くなりたい」

「会話したい」

という気持ちを表す自然な方法の一つでした。

だから日本でも、

自分から話しかければ、少しずつ人間関係が広がっていくと思っていたようです。

しかし実際には、そう簡単ではありませんでした。

知らない人から突然話しかけられると、驚いたり警戒したりする人もいます。

マンションのような生活空間では、近所の人と一定の距離を保ちたい人もいます。

会社でも、勤務時間中に業務上あまり関係のない人から話しかけられることを負担に感じる人はいるでしょう。

ただ、彼には最初、その感覚がよく分かりませんでした。

本人からすると、

「仲良くなりたいだけなのに、なぜこんなに距離を取られるのだろう」

という気持ちだったのだと思います。

会社でも周囲が静かだったことで、

「自分は歓迎されていないのではないか」

と感じることもあったそうです。

上司に相談して、さらにショックを受けた

彼はこの悩みを日本人の上司に相談しました。

すると上司から、

知らない人に突然話しかけることは、相手によっては負担に感じることがある。

会社でも、仕事上あまり関係のない人へ勤務時間中に話しかけると、相手が困る場合もある。

という説明を受けたそうです。

上司としては、

日本で生活する中で、人との距離感がどのように受け取られることがあるのかを伝えようとしたのだと思います。

外国人社員との定期面談では、仕事だけでなく、職場の人間関係や日本での生活についても確認することが重要です。具体的な質問項目については、「外国人社員との定期面談で確認すべき8つの項目|離職を防ぐ質問例と現場で感じたポイント」でまとめています。

私も、その説明自体は理解できます。

知らない人から突然声をかけられれば、警戒する人もいます。

仕事中であれば、雑談を負担に感じる人もいます。

ただ、本人にとってはかなりショックだったようです。

それまで彼は、

「積極的に話しかけることは良いことだ」

と考えていました。

それが、

「自分から話しかけること自体が、相手に迷惑なのかもしれない」

という受け取り方に変わってしまったのかもしれません。

その後、彼は急に静かになりました。

積極的だった人が、今度は話さなくなった

もともと彼は、

日本語を練習したい。

人と仲良くなりたい。

という気持ちから積極的に話しかけていました。

ところが、

「その行動は相手の負担になる場合もある」

と知った後、

今度は逆に、人へ話しかけること自体をかなり控えるようになったそうです。

その状態は半年ほど続きました。

私はこの話を聞いた時、

少し考えさせられました。

彼に必要だったのは、

「人に話しかけないこと」

だったのでしょうか。

たぶん違います。

彼に必要だったのは、

日本で人との関係を作るための、別の入り口を知ること

だったのだと思います。

「知らない人には突然話しかけない方がいい」

と伝えるだけでは、

本人の中には、

「では、どうすれば人と仲良くなれるのか」

が残ります。

何かを注意する時、

やめるべき行動だけが伝わり、

次の行動が見えなくなってしまうことがあります。

上司から私にも連絡があった

その後、彼の上司から私にも連絡がありました。

上司が感じていたのは、

ビジネスマナーだけではなく、

日本で生活する中で、人との距離感がどのように受け取られることがあるのかについても、伝えた方がいいのではないか

ということでした。

私は彼に、

「知らない人から突然話しかけられることを警戒する人もいる」

ということを説明しました。

ただ、

「だから日本人には話しかけない方がいい」

と伝えたわけではありません。

日本での生活にまだ慣れていない間は、

同じように日本で暮らしている外国人と交流することも一つの方法だと思う。

そこで友人を作ったり、日本での生活について情報を得たりしながら、

少しずつ人との距離感を知っていけばいい。

そのうえで、日本人との交流も広げていけばいいのではないか。

そんな話をしました。

最初からまったく接点のない人へ次々に話しかけるのではなく、

共通点のある場所から少しずつ関係を作る

という考え方です。

半年間、上司との昼食が会話の入り口になった

彼が静かになっていた時期にも、

まったく日本語を話さなくなったわけではありませんでした。

その間、上司と一緒に昼食をとりながら、少しずつ日本語を話していたそうです。

私は、この時間が彼にとって一つの入り口になったのではないかと思います。

知らない人に突然話しかける必要はない。

でも、毎日顔を合わせる上司となら話せる。

昼休みであれば、勤務中よりも少し気軽に話しやすい。

そこから徐々に、

チームのメンバー。

会社の他の社員。

と、人間関係が広がっていきました。

いきなり多くの人と仲良くなったわけではありません。

一人から、少しずつ。

彼は、そうやって職場の中で自分なりの距離感を見つけていったのだと思います。

外国人の友人から、日本人との新しい接点ができた

会社の外でも変化がありました。

彼は少しずつ、日本で暮らす外国人の友人を作るようになりました。

そして、その友人たちから、

日本語と英語の交流会に誘われたそうです。

そこには、

英語を話したい人。

日本語を話したい人。

という共通の目的があります。

道ですれ違った知らない人に突然声をかけるのとは違い、

最初から、

「人と話すことを目的に集まっている場所」

です。

彼にとっては、ずっと会話を始めやすかったのではないかと思います。

そこで少しずつ日本人との接点も増え、

日本人の友人もできるようになっていったそうです。

私はこの流れが、とても興味深いと思いました。

彼は人と話すことをやめたのではありません。

人とのつながり方を変えたのです。

「注意する」だけでは足りないことがある

今回のケースでは、

彼の最初の行動がすべて良かったとは思いません。

知らない人へ突然話しかければ、

相手が不安になったり、負担に感じたりすることもあります。

マンションの隣人との距離感も、人によって違います。

会社にも、仕事に集中したい人はいます。

だから、

「相手からどう見えるのか」

を知ることは必要だったと思います。

一方で、

「その行動はやめた方がいい」

だけで終わってしまうと、

今度は本人が必要以上に行動を控えてしまうことがあります。

だからこそ私は、

「何をしてはいけないか」だけではなく、「では、どうすればいいか」まで伝えること

が大切だと思っています。

例えば、

勤務中ではなく昼休みに話す。

最初は挨拶から始める。

何度か顔を合わせる人と少しずつ会話を増やす。

社内イベントや趣味の集まりを利用する。

語学交流会のように、最初から会話を目的とした場所へ参加する。

そうした選択肢が見えれば、

本人も、

「人と話してはいけない」

と極端に受け取らずに済むかもしれません。

ビジネスマナーだけでは伝わりにくい「距離感」

外国人社員を受け入れる時、

企業はビジネスマナーを教えることがあります。

名刺交換。

挨拶。

報連相。

時間の守り方。

もちろん、そうした教育も大切です。

ただ今回のケースを見ていると、

それだけでは伝わりにくいものもあると感じます。

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「ビジネスマナーを教えているのか?」派遣先からの一言で考えた外国人派遣社員の教育

例えば、

どのくらい親しくなれば雑談しやすいのか。

忙しそうな人にはいつ声をかけるのか。

知らない人とは、どのくらいの距離から関係を作り始めるのか。

こうしたことは、

日本で長く生活してきた人にとっては、経験の中で何となく身につけている部分もあります。

一方、日本に来たばかりの人からすると、

その「何となく」が一番分かりにくい。

だから私は、

「日本では普通こうです」

と一方的に教えるだけではなく、

「こういう場面では、相手がこう感じる可能性があります」

と、相手側からどう見えるのかまで伝える方が理解しやすいと思っています。

今の私なら、「ダメ」の後に一つ代わりの方法を伝える

もし今、同じ相談を受けたら、

私はまず彼の気持ちを否定しないようにします。

日本語を話したい。

友達を作りたい。

それ自体は自然な気持ちだからです。

そのうえで、

「知らない人に突然話しかけると、相手が驚くことがあります」

と伝えます。

そして、そこで終わらせず、

「代わりに、こういう場所なら話しやすいです」

と一つでも具体的な方法を一緒に伝えたいと思います。

会社なら昼休み。

社外なら趣味の集まりや語学交流会。

すでに知っている人から紹介してもらう方法もあります。

本人の積極性を止めるのではなく、

その積極性を、相手も受け取りやすい場所へ向ける。

今回のケースでは、それが大切だったのではないかと思います。

彼は、自分なりの距離感を見つけていった

彼は最初、

日本語を上達させたいという気持ちから、積極的に人へ話しかけていました。

しかし、自分の行動が相手の負担になることもあると知り、

一時期は必要以上に話すことを控えるようになりました。

そこから、

上司との昼食。

チームメンバーとの会話。

会社の人たちとの交流。

外国人の友人。

語学交流会。

少しずつ人との接点を広げていきました。

彼にとって必要だったのは、

周囲に合わせて無理に自分の積極性を抑えることではなかったのだと思います。

自分の性格を残しながら、相手も受け取りやすい距離感を知ること。

そして、

「話しかけない」

のではなく、

「どこで、誰に、どのように話しかけるか」を少しずつ学んでいくこと。

それが、彼なりの日本での人間関係の作り方につながったのではないでしょうか。

外国人社員に何かを注意する時、

皆さんの会社では、

「それはやめた方がいい」と伝えた後に、「では、どうすればいいか」まで一緒に伝えているでしょうか。

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